よく
狭山茶について、お問い合わせを頂きます。
具体的には、狭山茶って
どんな味なの?何が特徴なの?といったお問い合わせです。
今もお茶の特集などがテレビで組まれると、「
色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」という狭山地方の茶摘み唄が取り上げられるように、狭山茶は「味」に特徴づけられる「最も美味しい」お茶として知名度があるようです。
しかし、全国有数の茶産地である静岡、京都、鹿児島、そして埼玉のどの地域の中にも
美味しいお茶とそうでないお茶があるというのが私が考える一つの事実です。
実はお茶の味を決めるのは、単なる地域差だけではなく、肥料の量、茶葉の摘採から荒茶の製造方法、その後の火入れ仕上までの製造過程など、多くの要素によって決まります。
例えば、茶葉を摘採してから時間がたつと空気に触れてしまうことで味が変質してしまうことがあります。火入れもその茶葉に合わない方法で行えばその茶葉の持つ本来の味を壊してしまうことがあります。
確かに育った産地によって味の特徴が異なるのも事実です。
しかし、それは気候によって生まれた味の差異ではなく、
それぞれの茶産地の方針や地域の習慣、地域の茶業者が生産方法を共有したり均質化しようとして生じたものである場合が多いです。
例えば、鹿児島は「ゆたかみどり」という品種の生産が多いですが、この「ゆたかみどり」の特徴を活かすような生産方法が一部の地域で共有されています。すると「その味が良い」いう共通認識が地域で広まり、その味を生み出す生産方法に生産家がおのずと向かうのです。
こうして各地域それぞれの事情から、地域の味が出来上がるわけですが、これはむしろ、自然条件ではなく、
社会的条件から生じた味の差異なのです。この製法で「やぶきた」の品種を作ると、同じやぶきたでも通常の製法とは全く異なる味が出来上ってしまうのです。
では、こうしたことを踏まえて、狭山茶の味を説明するとどうなるでしょうか?
私が考える狭山茶の特徴は、各生産家がこだわり抜いた
浅蒸しでクセのある味です。
実は狭山茶産地の埼玉県の茶生産家は「
自園・自製・自販」を特徴としており、自社で茶園を管理し、製造設備を持ち、販売までをも行っています。
実はこれは、埼玉県より生産量の圧倒的に多い静岡や鹿児島では
非常に珍しいのです。
静岡や鹿児島のように地域である程度の収穫量があると分業してしまう方が効率が良いので、生産家、製造家、販売者と分かれているのが大生産地の特徴であり、「自園・自製・自販」は埼玉県が持つ希少な特徴なのです。
すると、各農家はそれぞれで
特徴のある味を追求するようになります。
実際に、他の生産県と比べて、職人気質が強いというのが、私が肌で感じる部分でもあります。
またお客様の声を直接聞く機会に恵まれているため、
それぞれのお店が独自の味を持っていることが多いと思います。
その意味において、良い意味でクセのある味が狭山茶の特徴なのではないかと思うのです。このクセばかりは味わうことでしか分かりません。
狭山茶はよく、茶生産県の中では最も北に位置しているので、葉肉の厚い茶葉が独特の味を出すと言われます。確かにそれらの影響も多分にあると思いますが、最大の狭山茶の特徴といえば、
各生産家のこだわりが全面に出ていることであると思います。
これらの思いを伝えるために我々茶商も日々、商売に励んでいるわけであります。
2020年3月20日 代表取締役社長 石田英希